オフィスの移転や新設は、企業にとって非常に重要な意思決定のひとつです。適切な物件を選ぶことが、社員の生産性やモチベーション、さらにはコスト面やブランディングにも大きく影響します。そのため、物件探しを始める前にまずは自社の業務内容や人数規模、将来の拡張計画を整理し、必要な条件を明確にしておくことが欠かせません。
本記事では、オフィス物件の種類をはじめ、賃貸物件を探す際の手順、現地見学や契約時に注意すべき点、さらに物件選びで特に重視すべきポイントを解説します。
オフィス物件には、大きく分けて「従来型の賃貸オフィス」と「フレキシブルに利用できるオフィス」の二つのカテゴリがあります。
「従来型の賃貸オフィス」は、ビルやテナントの一室を数年単位で借りる形態です。賃貸契約の自由度が高いため、自社で好きな内装プランを採用できる反面、敷金や礼金、保証金などの初期費用が大きく、原状回復に関する条項も厳格なケースが多いという特徴があります。
一方、サービスオフィスやレンタルオフィスなど「フレキシブルに利用できるオフィス」は、家具やインフラ設備がセットになっており、最短1ヶ月といった短期間から借りられることがメリットです。スタートアップや予算を抑えたい企業に向いており、共用の会議室や受付サービスが利用できるプランも多く、初期投資や内装工事の手間を省いてすぐに業務を始められます。
サブリースオフィスは大規模ビルのフロアを一括借りした事業者が転貸する仕組みで、ワンフロアを複数社でシェアすることで坪単価を抑えられる場合があります。
コワーキングスペースは固定席ではなくフリーデスクや共用エリアを利用する形態のため、コミュニティや気軽な打ち合わせを重視する企業・個人に人気です。
バーチャルオフィスは住所のみを借りるタイプで、実際の執務スペースを必要とせず、郵便物や電話転送サービスだけを利用したい場合に適しています。
このように、それぞれの形態にはコストや期間、サービス内容、契約条件といった違いがあるため、自社の事業ステージや予算感、業務のスタイルに合わせて最適なタイプを選ぶことが重要です。
賃貸オフィスを探す際は、まず最初に社内で「何を」「どこに」「いくらで」借りるかといった条件を整理することから始めます。
利用目的をはっきりさせるために、営業拠点なのかバックオフィスとして使うのか、来客頻度がどれくらいかといった業務イメージを具体化し、人員数や将来的な増員計画を考慮して必要面積を逆算します。一般的にはスタッフ一人当たり5~8m²を目安にするとよいでしょう。
次に、社員の通勤利便性や顧客訪問のしやすさを基準にしてエリアを絞り込みます。例えば、最寄り駅から徒歩5分以内か、バス停やタクシー乗り場が近隣にあるか、さらには主要幹線道路や高速インターへのアクセスがどれほどスムーズかを検討します。
そして、賃料だけでなく共益費や管理費、敷金礼金、更新料などを含めたトータルの予算を設定し、物件の選定に必要なスペックをあらかじめ決めておくことがポイントです。
条件が固まったら、まずはオフィス専門の不動産仲介会社に相談しましょう。仲介会社の担当者はエリア情報に詳しく、自社条件にマッチする物件を複数紹介してくれます。
また、インターネット上のオフィスポータルサイトや一般的な不動産サイトでも検索を行い、気になる物件があれば間取り図や写真を確認してリストアップします。
候補物件がある程度絞られてきたら、建物構造や築年数、耐震性、耐用年数などを比較検討します。鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造といった構造によって耐震基準や遮音性に違いがあるため、特に地震リスクを考慮する場合は、新耐震基準を満たしているかを必ず確認しましょう。
内見前の段階で、間取りやフロアレイアウト、OAフロアの有無、天井高をチェックし、執務スペースや会議室、サーバールームをどのように配置できるか、柱や梁がレイアウトの妨げにならないかをイメージしておくことも重要です。
また、空調能力や電気容量、給排水設備については、IT機器を多く使う場合やサーバールームを設置する場合に十分な余裕があるかを具体的に検討し、共用トイレやエレベーター台数といった共用部の状況も確認しておきます。
候補物件が決まったら、実際に現地内見(内覧)を行い、採光や通風、室内の明るさ、温度ムラなどを目で確かめます。南向きか北向きかといった方位だけではなく、近隣の建物や道路の騒音、線路の振動といった周辺環境の影響も必ずチェックしてください。内装工事の際に必要となる床スラブやOAフロアの高さ、天井高を実際に測定して、レイアウトの自由度や工事のしやすさをイメージしながら確認します。
さらに、光回線やCATVなどのネットワーク回線がすでに引き込まれているか、LAN配線用のダクトやスペースが確保されているかを見極め、非常階段の位置や避難経路、消火器やスプリンクラーの配置も実際に確認することで、安全面のリスクを抑えられます。
条件や内見結果を踏まえたうえで、家賃や保証金についてオーナーや仲介会社と交渉を進めます。周辺相場を参考にしながら坪単価ベースで家賃と共益費を比較し、保証会社利用時の条件や保証料を含めたトータルコストを検討します。
また、定期借家契約か普通借家契約かを選び、更新料や家賃改定ルール、解約時のペナルティ規定を細かく確認しましょう。
原状回復範囲や造作譲渡の可否、引き渡し後の内装工事・登記変更など、スケジュール面もしっかり詰めておくことで、契約後のトラブルを未然に防ぐことができます。
物件を比較検討するときにとくに留意しておきたい点は、「アクセス」「コスト構造」「建物スペック」「間取り・レイアウト」「設備・インフラ」「セキュリティ・防災」「周辺環境」「駐車場・駐輪場」「賃貸条件」の9つに集約されます。
最寄り駅から徒歩5分以内を理想としつつ、バス停やタクシー乗り場の位置、さらには深夜・早朝にもタクシーをひろいやすい環境かどうか、車通勤者にとって高速道路や主要幹線道路へのアクセスのしやすさも含めて総合的に判断しましょう。
家賃と共益費だけではなく敷金礼金や保証金の償却率、更新料まで含めたトータルコストを把握し、さらに駐車場や看板使用料、清掃費用などの隠れコストが発生しないかを事前に確認することが大切です。
築年数が5年以内の築浅物件であれば設備が新しく、メンテナンスコストを抑えやすい反面、築20年以上の築古物件は賃料が安価に設定されている分、耐震補強や大規模修繕の必要性を必ずチェックする必要があります。構造の違いや新耐震基準への適合状況を確認し、居住性や安全性を見極めましょう。
柱や梁の位置がレイアウトの自由度に影響しないか、OAフロアやスラブ高が十分に確保されているか、天井高が業務に適しているかを具体的にイメージしたうえで比較することが重要です。
また、給排水や換気ダクトの配置も内装プランに直結する要素ですので、不動産図面だけではわからない部分を現地で必ず確認してください。
空調システムの能力や会議室ごとの温度設定の可否、電気容量やUPSの有無をチェックし、サーバールームを設置する場合は特に注意が必要です。
通信インフラも同様に、光回線の引き込み状況や配線ダクトの配置によって、入居後の追加工事コストや工事期間に大きな差が出ることがあります。
カードキーや暗証番号式の入退館管理システム、防犯カメラの設置状況だけでなく、警備会社との契約状況やスプリンクラー、消火器、非常用照明の整備状況、避難経路の確保を必ずチェックし、万が一の際に安全に避難できるかどうかを見極めましょう。
ランチや休憩時に利用できる飲食店やコンビニの充実度、急ぎの書類発送や振り込みなどを想定して銀行や郵便局が徒歩圏内にあるか、さらに従業員の健康管理意識が高い場合には近隣に医療機関やクリニックがあるかを確認することが求められます。
また、子育て世代の社員が多い場合は、託児所や保育園が近隣にあるかどうかも配慮すべきポイントです。
車通勤者がいる場合には駐車スペースを確保できるかどうか、契約台数や料金体系を事前に把握し、満車リスクを考慮してください。自転車通勤をする社員向けには駐輪場の台数や利用ルールを確認しておくことで、日常的なストレスを軽減できます。
定期借家契約か普通借家契約かを見極めるだけでなく、中途解約ペナルティや更新料の金額・タイミングを明確にし、築年数経過による共益費・共用設備の改定リスクを把握したうえで、借家人賠償責任保険や火災保険への加入義務なども含めて総合的な判断を行いましょう。
膨大なチェック項目のなかで、特に優先度が高く、ぜひ重視していただきたいポイントを以下にまとめます。
通勤時間を短縮することは社員の満足度を向上させるだけでなく、通勤コストの削減や遅刻・欠勤のリスク低減にもつながります。
したがって、最寄り駅から徒歩5分以内を目安に、バス停やタクシー乗り場が近くにあるかどうかも確認し、万が一深夜や早朝に帰宅する必要が生じた際でも安心して利用できる環境を選びましょう。
営業拠点として利用する場合は、顧客訪問を見据えて主要幹線道路や高速インターへのアクセスも視野に入れておくとよいでしょう。
家賃だけに目を向けるのではなく、共益費や管理費、保証金の償却率、礼金、更新料、さらには駐車場料金や看板使用料、清掃費用などを含めた実質的なコストを算出し、長期的な視点で試算してください。
内装工事を行う場合には、工事費用や造作譲渡費用も加味したうえで見積もりを取り、初期投資+ランニングコストを総合的に把握することが重要です。
近年は地震リスクが高まっているため、新耐震基準を満たすRC・SRC構造の物件を選ぶことが望ましいでしょう。築年数が古い場合は、過去に大規模修繕や耐震補強が行われているか、その履歴を確認し、将来的に発生する可能性のあるメンテナンス費用をあらかじめ想定することが大切です。
築浅であれば設備が新しく、当面の修繕リスクを抑えやすいというメリットがある一方、築古物件は坪単価が安いことがありますが、設備更新や補修リスクを加味した判断を行いましょう。
執務席や会議室だけでなく、サーバールームや休憩スペース、受付カウンターをどのように配置できるかをイメージしやすい物件を選びましょう。
とくに柱や梁が多い物件では、パーテーションや家具の配置に制約が生じるため、内見時には柱間隔や天井高、OAフロアや床スラブの高さを実際に測って確認し、配線ダクトや給排水位置も含めて、将来的なレイアウト変更や機器増設に対応できる余裕があるかを見極めることが大切です。
IT機器を多く使用する場合は電気容量やUPS(無停電電源装置)の有無を必ず確認し、万が一の停電に備えた対策が講じられているかを検証しましょう。
また、空調システムが執務室や会議室ごとに個別温度設定できるか、将来的にレイアウトを変更して機器を増設した場合でも十分な空調能力を維持できるかをチェックしておくと安心です。
通信インフラについては、光回線などの高速回線が引き込まれているか、配線用のダクトやラックが余裕を持って設置されているかを確認し、初期導入コストや追加工事の手間を減らせる物件を選ぶことが望まれます。
入退館管理はカードキー式や暗証番号式、あるいは指紋認証などがあり、企業のセキュリティポリシーに合致しているかを確認します。
防犯カメラが共用部やエントランスに十分に設置されているか、警備会社との契約状況(有人か機械か、など)もチェックしてください。
火災報知器やスプリンクラー、消火器、非常用照明が適切に整備されているか、避難経路が確保されているかも現地で必ず確認しましょう。
ランチや休憩時に利用できる飲食店・コンビニの数やジャンルが豊富か、急ぎの経理業務に対応できる銀行や郵便局が近隣にあるかを見ておくと、日常業務を円滑に進められます。
さらに、従業員の健康管理を考慮して医療機関やクリニックが徒歩圏内にあるか、子育て世代の社員がいる場合は託児所や保育園の有無もチェックしておくと安心です。
オフィス物件探しは、単に「駅に近い」「賃料が安い」といった表面的な条件だけではなく、自社の事業内容や組織体制、将来的な成長ビジョンをふまえた総合的な判断が求められます。
立地やアクセスの利便性、トータルコストの見極め、建物の耐震性やレイアウトの自由度、空調・電気・通信インフラ、セキュリティ・防災設備、さらには周辺環境の利便性まで、さまざまな視点でチェックリストを活用し、社内関係者と十分に議論しながら「最適」な一棟・一室を選んでください。
ここではオフィスの環境をどのようにしたいかという観点からおすすめのオフィスデザイン会社を紹介しています。
未来を見据えた空間設計を得意とし、各エリアの仕切りにはガラスや開口部を採用したり、エリア間にはコミュニケーションスペースを設け、偶発的な社員同士の交流やアイデアの共有を自然に促進する工夫を取り入れています。
2022年には年間1,300件以上*のオフィス仲介実績があり、そこで培ったノウハウを活かし、業種や規模に応じた理想のオフィス実現に向けた提案が得意です。
企業のビジョンを反映しながらブランド価値を高めるオフィスデザインを提案。
例えばオフィス内にロゴやデジタルサイネージを配置し、社員や来訪者にもブランドのメッセージを効果的に発信できる空間を設計するなど、企業の理念やカルチャーを直感的に感じ取れる環境を提供しています。
リリカラは仕事の内容に合わせて働く場所を自由に選択する働き方(ABW)にマッチしたオフィスデザインを得意とする企業。例えば、リモート推進等によりオフィスが縮小した場合も、さまざまな形状のデスクを活用したり、規則的な配置にとらわれず工夫を加えたりすることで、物理的な障壁を排除し、作業効率を高めるオフィスを実現しています。
*参照元:オフィスナビ公式HP(https://www.office-navi.co.jp/service/consulting/)